大判例

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福岡地方裁判所久留米支部 昭和59年(ワ)192号 判決

福岡県筑後市大字下妻七二九番地の一

本訴事件原告・反訴事件被告(以下「原告」という。)

江崎与曽市

右訴訟代理人弁護士

松村〓

福岡県八女市大字本町二三七番地の一

本訴事件被告・反訴事件原告(以下「被告」という。)

井上岩夫

右訴訟代理人弁護士

下田泰

三溝直喜

小宮学

馬奈木昭雄

右馬奈木昭雄訴訟復代理人弁護士

内田省司

高橋謙一

主文

一  被告は、別紙物件目録(二)記載のロ号方法説明書及び同説明図記載の提灯乾燥法を実施する装置を自ら製作し、または他の者に製作せしめてはならない。

二  被告は、前項記載の提灯乾燥法を実施する装置を用いて提灯を製造してはならない。

三  被告は、第一項記載の提灯乾燥法による製品を自ら所持し、または他に譲渡してはならない。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  被告の反訴請求を棄却する。

六  訴訟費用は、本訴反訴ともに、これを四分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

〔本訴事件〕

一  請求の趣旨

1 被告は、別紙物件目録(一)記載のイ号装置説明書及び同説明図記載の円筒型長提灯袋製造装置並びに別紙物件目録(二)記載のロ号方法説明書及び同説明図記載の提灯乾燥法を実施する装置を自ら製作し、または他の者に製作させてはならない。

2 被告は、前項記載の円筒型長提灯袋製造装置及び提灯乾燥法を実施する装置を用いて提灯を製造してはならない。

3 被告は、第1項記載の円筒型長提灯袋製造装置及び提灯乾燥法による製品を自ら所持し、または他に譲渡してはならない。

4 被告は、原告に対し、金六〇九六万円及び内金二二二三万三〇〇〇円については昭和六一年五月二一日から、内金八五三万六六〇〇円については昭和六三年九月六日から、内金二三五七万四四〇〇円については平成元年一二月二三日から、内金六六一万六〇〇〇円については平成二年二月七日から支払済みまでそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。

5 訴訟費用は被告の負担とする。

6 第4項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

〔反訴事件〕

一  反訴請求の趣旨

1 原告は、被告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和六一年一二月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 第1項につき仮執行宣言

二  反訴請求の趣旨に対する答弁

1 被告の反訴請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第二  当事者の主張

〔本訴事件〕

一  請求原因

1 原告は、次の(一)及び(二)記載の各特許権(以下、(一)の特許権を「本件第一特許権」、その発明を「第一発明」といい、(二)の特許権を「本件第二特許権」、その発明を「第二発明」という。また、本件第一特許権及び本件第二特許権を合わせて、「本件各特許権」という。)を有している。

(一) 発明の名称 円筒型長提灯袋製造装置

出願日 昭和四八年六月二〇日

公告日 昭和五一年三月一二日

登録日 昭和五一年一一月一八日

登録番号 特許第八三四一二六号

(二) 発明の名称 提灯の乾燥製造法

出願日 昭和四八年一〇月五日

公告日 昭和五三年九月九日

登録日 昭和五四年五月三一日

登録番号 特許第九五四五二二号

2 第一発明

(一) 第一発明の特許請求の範囲は、別紙特許公報(一)に記載のとおりである。

(二) 第一発明の構成要件を分説すれば次のとおりである。

A ベース1の上面背面寄り一方側に支脚を立設して軸受2を固締し、他方側に倒着しうるようになした支脚を立設して溝軸受3を固締し

B 適長さの軸体4の両側部に右ねじ5、左ねじ5'を穿設し

C 円板6の円周縁部に放射状の長孔7を適数開孔するとともに、該円板6の中心に軸受8、8'ネジ軸受9、9'等を固定した支持枠10、10'、誘導支持枠11、11'を形成し、軸体4の中央部に支持枠10を遊嵌するとともに右ねじ5、左ねじ5'に誘導支持枠11、11'とを捻着し

D 適長巾の長板12の両端部下面にテーパー面13、13'を形成し、一端部寄りにピン14、14'を突設するとともに、両端部に小孔15、15'、一端寄り上部位置に適間隔をおいてボルト孔16等を開孔し、先端部上面を切欠17した枠杆18を形成し

E 適長さの板片19の一方端部上面を切欠20し、他方端部上面にテーパー面21を形成するとともに下部位置にボルト孔22を開孔した調整枠23を形成し、該調整枠23を枠杆18の一端寄り上部位置にボルト等により付設し

F 該調整枠23を付設した適数の枠杆18の中央下面を支持枠10の各長孔7に、両端部テーパー面13、13'を誘導支持枠11、11'の各長孔7に嵌着し

G 軸体4の両端部にメタル24、24'を遊嵌するとともに、該メタル24、24'と各枠杆18の両端部小孔15、15'とにスプリング25、25'を張設し

H 軸体4の一端部に支持枠10'を遊嵌して各枠杆18の一端に突設したピン14と14'との間隙に嵌着させた円筒型枠体26を形成し

I 該円筒型枠体26の軸体4にⅤプーリ27を固締して両端部を軸受2と溝軸受3とに軸架し

J 軸体4の一端部を溝軸受3より小許突出させてハンドル28を嵌着しうるようになし

K ベース1の正面寄りに支脚を立設し、その上面に軸受29、29'を固締し、該軸受29、29'にネジ軸30の両端部を軸架し、該ネジ軸30の両端部寄りにⅤプーリ31、31'を固締し、Ⅴプーリ31とⅤプーリ27とにⅤベルト32を調帯し

L ネジ軸30に割型となしてスプリング33、33'で係着したガイド軸受34、並びに円錐状の拡げ筒35を嵌着し

M ガイド軸受34より腕杆36を背面方向に突設し、該腕杆36の先端に糊収容箱37を付設し、腕杆36の下部位置にガイド杆38を横設して腕杆36を載架し

N ベース1に付設した無段変速機付モーター39の回転軸に固締したⅤプーリ40とⅤプーリ31'とにⅤベルト41を調帯し、巻付ボビン42に巻付けされた鋼線43を糊収容箱37を貫通させて円筒型枠体26に延長巻付けすべくなして成る円筒型長提灯袋製造装置

(三) 第一発明は、前記の構成により、次の作用効果を奏する。

a 流動する提灯骨に糊を付着させながら、右提灯骨を自転中の型枠の外周に等間隔を維持しつつ、一挙に巻き付けることができる。

すなわち、電力を用い、ネジ軸30を回転させるとともに型枠26へも連動して同速度、同方向へ回転させ、他方、ネジ軸30の回転に伴い、ガイド軸受34及び腕杆36により支持された糊収容箱37が左から右へ移動し、これを通過し糊の付着した鋼線43が型枠外周へ概ね九ミリメートル間隔を維持しながら螺旋状態に巻かれていくのである。

以上により、提灯骨を貼る直前までの工程を短時間に能率的に終わることができる。

b ハンドル28を回すことにより軸体4を回転させ、左右の円板6、6'をネジの作用によりそれぞれテーパー面の内外へ移動させることにより型枠26を拡縮させることができる。

これにより提灯袋を簡単に外し、その型枠を直ちに次の提灯袋の製造に使用することができる。

c 従来の複数の作業工程を一本化して短時間に製品の量産を可能とすることができる。

3 第二発明

(一) 第二発明の特許請求の範囲は、別紙特許公報(二)に記載のとおりである。

(二) 第二発明の構成要件を分説すれば次のとおりである。

A 円筒形、球形、角形等適宜形状に形成する、組立解体自在となしたる型枠の外周に

B 紙等を捲着せる、電導性の鋼線を、螺旋状に巻回して提灯骨を形成するとともに

C 該提灯骨の外周面に、接着用の糊を塗着し、その上面に、紙等を貼着したる後

D 該電導性提灯骨に、適宜の電源機構により、電流を通じ、適正温度に加熱乾燥し、成型することを特徴とする提灯の乾燥製造法

(三) 第二発明は前記の構成により、次の作用効果を奏する。

すなわち、従来は糊付けして張り終えられた提灯紙を乾かすためには乾燥室を設け電気やガスなどにより部屋を温めるため長時間を要し、経費も多大であるのに出来ばえも不均一で不良品が多く出たが、第二発明により

a 短時間でも乾燥することができ

b 広い部屋その他の設備も要せず、安価に乾燥目的を達することができ

c 仕上がりのよい製品を生産することができるようになった。

4 被告は、別紙物件目録(一)記載のイ号装置説明書及び同説明図記載の円筒型長提灯袋製造装置(以下「イ号装置」という。)並びに別紙物件目録(二)記載のロ号方法説明書及び同説明図記載の提灯の乾燥法(以下「ロ号方法」という。)により、提灯袋を製造している。

5 イ号装置

(一) イ号装置の構造を第一発明の前記構成要件に対応して区分説明すれば、次のとおりである。

(a) 機枠1に支脚2、3を立設し、一方の支脚1の上端に軸受4を設け、他方の支脚3の上端に溝軸受5を設ける。

(b) 前記軸受4には駆動回転軸6を支持し、同回転軸6の一端には駆動用プーリ7を設け他端にはピン係合溝8を形成したジョイント9を設ける。このジョイント9には軸体10を着脱自在に嵌合し、ピン11をピン係合溝8に挿入し軸体10の他端は、第8図に示すように溝軸受5に支持する。

(c) 軸体10の中程には円板12、12を二個固定して設け、同円板12、12の外周に直径方向に複数の溝13を形成し、これらの溝13に枠杆14を直径方向に摺動自在に嵌合して円筒型枠体15を形成し、同枠体15の両端外周に環ゴム16、16を嵌合し、その弾力性によって枠杆14を軸体10に向かって締め付ける。

(d) 前記円板12、12は枠杆14の内面に形成したテーパー面17、17に環ゴム16、16の弾力性によって圧着し、軸体10を摺動させることにより円板12、12とテーパー面17、17との相互作用によって円筒型枠体15の外径が拡縮する。

(e) 機枠1には前記円筒型枠体15と平行なネジ軸18を軸受19、19によって支持し、同軸18に設けたⅤプーリ20と前記Ⅴプーリ7とをⅤベルト21で接続してネジ軸18と駆動回転軸6とを連動させ、同ネジ軸18はモーター22によって回転させる。

(f) 前記ネジ軸18には第4図に示すように二つ割型雌ネジ23をスプリング24の力で螺合し、ネジ軸18の回転により同雌ネジ23を摺動させ、スプリング24をレバー25で操作して二つ割型雌ネジ23を上下に開いて螺合を解き同雌ネジ23を元に位置に戻す。

(g) 雌ネジ23には腕杆26を設け、同腕杆26の上端に糊収容箱27を設ける。

(h) 紙28を巻き付けて被覆した鋼線29をリール30に巻き取り、同鋼線29を前記糊収容箱27の糊付車31を通過させて糊を塗着し前記円筒型枠体15に螺旋状に巻き付ける。

(二) イ号装置は、(一)記載の構成要件を有することにより、前記2(三)記載の第一発明と同一の作用効果を有する。

6 イ号装置と第一発明との対比

(一) 被告のイ号装置は、第一発明の構成要件をすべて充足する。

a. 被告のイ号装置は、第一発明のAないしD、F、G及びJの要件を充足する。

なお、イ号装置の場合、軸体10に右ねじや左ねじが認められず、ハンドルも認められないし、軸体10はハンマーによる叩打によって枠杆14に沿って摺動し枠杆14に形成したテーパー面17と軸体10に固定した円板12、12の外周面との相互摺動作用によって枠杆14の直径を拡縮しうる(いわゆる「カム方式」)のに対し、第一発明においては、円筒型枠体26を軸受2及び溝軸受3で支持し、軸体4の左右に刻まれたネジの作用により枠杆18の両端部テーパー面13、13'と近接離反する誘導支持枠11、11'との相互摺動作用によって同枠体26の直径をハンドル28の正逆回転操作で拡縮する(いわゆる「ネジ方式」)のであって、この点に相違が見られるが、イ号装置は第一発明を改良したものにすぎないのであって、第一発明が考案された時点で通常の知識を有する者が極めて容易に考案することができる事柄であるから、新規の考案ではなく、現にイ号装置と同じ型枠につき、昭和五七年五月、原告が実用新案登録を出願したところ、右と同一の理由でこれが拒絶されたことからも明らかである。

よって、右の相違は、第一発明の技術的範囲内のものである。

b. イ号装置は、第一発明のⅠの要件を充足する。

なお、イ号装置では枠杆14の外周に鋼線29を巻き付け、その状態のまま軸体10及び枠杆14を駆動用Ⅴプーリ7から分離し、これをそのまま次工程の胴紙張着工程に移すことができるのに対し、第一発明においては、円筒型枠体26及び軸体4をⅤプーリ27及び軸受2から分離することはできないが、そもそも特許申請の段階から型枠を固定することは考えられておらず、また、軸体を自由に分離できるように工作することは、前記のとおり、第一発明が考案された時点で通常の知識を有する者が極めて容易に考案することができる事柄であるから、新規の考案ではない。

したがって、右の相違は、第一発明の技術的範囲内のものである。

c. イ号装置は、第一発明のEの要件を充足する。

なお、イ号装置では提灯袋の長さ調節機能は認められないのに対し、第一発明では、調整枠23をボルトによって枠杆18に取り付け、その取付け位置を変更することによって切欠20と枠杆18の先端部切欠17との間の距離を調節し、提灯袋の長さを調整することができる点において相違するが、前記のとおり、イ号装置の型枠は新規な発明ではなく、また、長さの調整ということは、第一発明についての特許公報では具体的に説明されていないから、第一発明の要件には直接関係のない事項である。

d. その他、イ号装置は、第一発明のH、KないしNの要件を充足する。

(二) イ号装置の作用効果は、第一発明のそれと同一である。

なお、(一)記載のとおり、イ号装置と第一発明との間には相違が見られるが、いずれも両者の作用効果に差異をもたらすものではない。

(三) よって、イ号装置は、第一発明の技術的範囲に属する。

7 ロ号方法

(一) ロ号方法の構成を第二発明の前記構成要件に対応して区分説明すれば、次のとおりである。

(a) 枠杆14による組立自在の円筒型、球型、角型等適宜形状に形成する枠体15の外周に

(b) 紙28を巻いて被覆した電導性鋼線29を螺旋状に巻回して提灯骨32を形成し

(c) 該提灯骨32の外周面に糊を塗着し、その上面に紙を貼着した後

(d) 該提灯骨32の両端に+・-の電源コード33、33を接続し、この電源コード33、33を電源スイッチに接続して電流を通じ、加熱乾燥して提灯袋を成形する。

(二) ロ号方法は、(一)記載の構成要件を有することにより、前記3(三)記載の第二発明と同一の作用効果を有する。

8 ロ号方法と第二発明との対比

(一) 被告のロ号方法は、第二発明の構成要件をすべて充足する。

a ロ号方法の構成要件(a)は、第二発明の構成要件Aを充足する。

b ロ号方法の構成要件(b)は、第二発明の構成要件Bを充足する。

c ロ号方法の構成要件(c)は、第二発明の構成要件Cを充足する。

d ロ号方法の構成要件(d)は、第二発明の構成要件Dを充足する。

なお、ロ号方法における+・-の電源コード33、33及び電源スイッチは、第二発明における「電源機構」に該当する。

(二) ロ号方法の作用効果は、第二発明のそれと同一である。

(三) よって、ロ号方法は、第二発明の技術的範囲に属する。

9 被告は、イ号装置が本件第一発明の技術的範囲に属すること及びロ号方法が本件第二発明の技術的範囲に属することを知りながら、昭和五五年二月ころからロ号方法を実施する提灯袋乾燥装置を使用してビニール丸提灯を自ら製作し、または第三者をして製作せしめ、昭和五八年三月からイ号装置一台にロ号方法を実施する装置二台を組み合わせ、昭和五八年一〇月以降は、イ号装置二台にロ号方法を実施する装置四台を使用して長提灯袋を製作して同業者に売却し、平成元年九月までの間に別紙「被告が第一特許と第二特許の侵害により得たる利益の明細書」記載のとおり、合計金六〇九六万円の利益を得て、同額の損害を原告に与えた。

10 原告は、右損害金の内金二二二三万三〇〇〇円については、昭和六一年五月一七日付け請求拡張並びに請求の原因訂正申立書をもって被告に請求し、同月二〇日右書面は被告に送達され、内金八五三万六六〇〇円については、昭和六三年九月五日付け請求の趣旨及び請求の原因訂正申立書をもって被告に請求し、同日右書面は被告に送達され、内金二三五七万四四〇〇円については、平成元年一二月二一日付け「請求拡張及び請求の原因訂正の申立」と題する書面をもって被告に請求し、同月二二日右書面は被告に送達され、内金六六一万六〇〇〇円については、平成二年二月六日付け「請求拡張及び請求の原因一部訂正の申立」と題する書面をもって被告に請求し、同日右書面は被告に送達された。

11 よって、原告は、被告に対し、本件各特許権に基づき、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

二  請求原因に対する綛否

1 請求原因1ないし4の事実は、いずれも認める。

2 同5のうち、(一)は認めるが、(二)は否認する。

3 同6のうち、(一)については、a.ないしc.記載のとおり、イ号装置と第一発明との間には原告が主張するような相違点があることは認めるが、その余は否認する。右三点の相違により、イ号装置は第一発明の技術的範囲に属しないというべきである。

同(二)及び(三)は、いずれも否認する。

4 同7のうち、(一)は認めるが、(二)は否認する。

5 同8のうち、(一)については、aないしcは認めるが、dは否認する。

第二発明では、適宜の電源機構を使用することが要件であるところ、「電源機構」とは、ロ号方法のごとく、電源コードと電源スイッチのような簡単な装置ではなく、負荷の要求する電力の形態、電圧、電流、電力レベル、安定度などに適合するための諸装置を含んだものの意味に解すべきである。そして、第二発明の特許公報の発明の詳細な説明欄の目的、実施例、作用効果の記載をも勘案して実質的に考えると、温度の調節機能を有することを当然の前提としており、右「電源機構」とは、昇圧トランス付の電源機構を指すというべきであり、これを使用しないロ号方法は、第二発明に抵触しない。

同(二)及び(三)は、いずれも否認する。

6 同9は否認する。

7 同10は認める。

8 同11は争う。

二  抗弁

1 第一発明についての先使用権の主張

仮に、イ号装置が第一発明の技術的範囲に属するとしても、被告は、第一発明について、先使用権による通常実施権(以下「先使用権」という。)を有する。

(一) 被告は、昭和四八年ころ、花弁様の紙に等間隔でひだを寄せるための機械である花弁しぼり機を応用してイ号装置を発明した。右花弁しぼり機は、円筒に花弁を巻き付け、その花弁の上に鋼線を等間隔で巻き付け、その後、鋼線と花弁を上から押しつぶす方法により花弁にひだをつけるものであって、円筒に鋼線を巻き付ける構造は、本件第一特許権の特許公報の特許請求の範囲に掲げる原理と全く同一である。

(二) 被告は、そのころから右イ号装置を使用して長提灯袋を製造し、これを販売していた。

(三) よって、被告は、第一発明について先使用権を有する。

2 第二発明についての先使用権の主張

仮に、ロ号方法が第二発明の技術的範囲に属するとしても、被告は第二発明について先使用権を有する。

(一) 被告は、昭和四五年秋ころ、一〇〇ボルトから五〇〇ボルトに昇圧する絶縁試験機を買い入れ、そのころ、これを利用して回転式提灯や紅丸小型提灯の火袋の乾燥実験を繰り返すなどした。しかし、電源装置を用いて乾燥させる方法は、強く発熱し、甚だ危険であるので、まもなく被告は、現在の方法である提灯袋の大きさにより家庭用電源または動力用電源と使い分けることによって、電源装置を用いることなくして直接に電気を鋼線に流す方法を発明した。このように、被告は、第二発明の内容を知らないで、自らロ号方法を発明した。

(二) 被告は、遅くとも昭和四七年秋ころには、ビニール提灯を大量に製造販売するための準備を始めていた。

(三) よって、被告は、第二発明についても先使用権を有する。

三  抗弁に対する認否

1 抗弁1の事実は、否認する。

被告主張の花弁しぼり機には、糊を付けながら鋼線を巻き付けていく機構がないから、原告主張の第一発明の要件を備えず、先使用権を有しない。

2 同2の事実は、否認する。

被告は、特許法七九条にいう「特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者」に当たらず、また事業の準備をしたこともないから、先使用権を有しない。

〔反訴事件〕

一  請求原因

1 前記のとおり、被告が使用するイ号装置は、原告の有する本件第一特許権を侵害しておらず、ロ号方法についても、原告の有する本件第二特許権を侵害していない。仮に、イ号装置及びロ号方法が原告の本件各特許権を侵害したとしても、被告は、第一発明及び第二発明のいずれについても先使用権を有している。

2 しかるに、原告は、被告が本件各特許権を侵害しているとして次のような名誉棄損行為を行った。

(一) 原告は、昭和五五年四月二一日、被告が本件第二特許権を侵害しているとして、特許法違反を理由に被告を福岡県筑後警察署に刑事告訴した。

これによって、被告及び被告の従業員らは、捜査当局から取調べを受けて多大な精神的苦痛を被った。

(二) 原告は、昭和五九年一月五日、被告が本件第一特許権を侵害しているとして、特許法違反を理由に被告を福岡県八女警察署に刑事告訴した。

これによって、被告は、捜査当局から再々にわたり取調べを受け、多大な精神的苦痛を被った。

(三) 原告は、被告に対し、再三にわたり、被告が原告の本件各特許権を侵害しているから、提灯の製造販売を中止せよと警告状を発し、さらに被告の従業員に対しても、特許法により処罰されることになるから、被告の経営する会社を辞めるよう警告状を出した。

また、原告は、被告の取引先である井上薫商店、井上弘商店及び今村保商店に対しても、被告に対する提灯袋の注文を直ちに中止しなければ、損害賠償を請求しなければならなくなる旨の警告状を出した。

原告の行ったこれらの嫌がらせによって、被告は、提灯業界における社会的信用を失墜させられ、その名誉を棄損されたうえ、提灯の売上も減少した。

3 被告は、原告からの警告状に対し、被告が原告の特許権を侵害していない理由について、書面または口頭によって、再三、説明しており、原告は、被告が本件各特許権を侵害していない事実を知っていたか、仮に、これを知らなかったとしても、それを知らなかったことについて重大な過失がある。

4 被告は、原告の行った前記2記載の各行為によって、名誉を棄損され、その業務を妨害されて損害を被ったが、右損害の慰藉料としては、金一〇〇万円が相当である。

5 被告は、原告に対し、本件反訴状をもって右金員を請求し、右書面は、昭和六三年一二月三日、原告に送達された。

6 よって、被告は、原告に対し、不法行為に基づく慰藉料として金一〇〇万円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である昭和六三年一二月四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因事実1のうち、原告が本件各特許権を有することは認めるが、その余は否認する。

2 同2のうち、(一)については、原告が昭和五五年四月二一日、被告を福岡県筑後警察署に刑事告訴した事実及びこれにより、被告らが捜査当局から取調べを受けた事実は認めるが、その余は不知。

同(二)のうち、原告が昭和五九年一月五日、被告を福岡県八女警察署に刑事告訴した事実及び被告が捜査当局から取調べを受けた事実は認めるが、その余は不知。

同(三)のうち、被告の信用が失墜したこと、被告の名誉が棄損されたこと及び被告の売上が減少した事実は不知。その余は認める。

3 同3及び同4は否認する。

4 同5は認める。

5 同6は争う。

第三  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一  本訴事件について

一  請求原因1ないし4、5の(一)、及び6の(一)のうち、a.ないしc.の相違点、以上の事実は、当事者間に争いがない。

二  イ号装置が第一発明の技術的範囲に属するか否かについて

1  前記のとおり、当事者間に争いのないイ号装置の構造aないしhが、同じく争いのない第一発明の構成要件AないしNをすべて充足するかどうかをみると、少なくとも、イ号装置の構造が第一発明の構成要件BないしJを充足していないことは明らかである。

この点について、原告は、それらの構成要件の欠落部分は、第一発明の要部に関係しない無意味な限定であり、これを欠いても要部を備える以上、イ号装置は第一発明の技術的範囲に属する旨主張するようである。

しかし、「特許発明の技術的範囲は、願書に添附した明細書の特許請求の範囲の記載に基いて定めなければならない」(特許法七〇条一項)ところ、いやしくも明細書に「特許請求の範囲」として記載された事項は、すべて当該発明の構成に欠くことができない事項として、出願人が認識し、その裁量と責任において記載したものであり、このような構成を必須要件とする発明として審査を受け、特許を付与されているのであるから、技術的に各構成要件の重要性に差異があるとしても、特許発明の効力の及ぶ客観的範囲を定める場面では、記載された各構成要件がすべて必須の要件であって、これに軽重の差異はないというべきである。付する必要のない無意味な限定を付して特許権を得た場合、これによって特許権の保護範囲が縮小せられる不利益を甘受しなければならないのは特許権者であって、これを一般第三者に転嫁することはできない。

そうすると、本件では、第一発明についての右「特許請求の範囲」として、前記AないしNの構成要件がすべて記載されていることは明らかであるから、それらを必須要件として解するほかなく、しかも前記のとおり、イ号装置はそれらの構成要件をすべて充たすわけではないから、この点ですでに、イ号装置は第一発明の技術的範囲に属さないことになる。

2  仮に、前記AないしNの構成要件が必須のものとそうでないものとに分かれる、との原告の立論を前提としても、以下のとおり、イ号装置は第一発明の必須の構成要件を充足していないから、第一発明の技術的範囲には属さないというべきである。すなわち、

(一) 第一発明についての特許公報(甲一の二。別紙特許公報(一)はその写し)の「発明の詳細な説明」によれば、「従来、長提灯の提灯袋を製造する場合には、長板状の枠杆の両端部を円型支持板に嵌着して円型筒体状の枠体を組立し、該円型筒体状の枠体を軸杆に遊架して回転させながら鋼線を巻付けすると共に、その表面に提灯胴紙を張着して、鋼線に胴紙が定着した後に内部の枠体を解体して提灯袋を抜取りしているものであり、円型筒体状の枠体の組立、並びに解体に手間を要すると共に、高能率に作業をなし得ず、近年、人手不足と共に提灯の大量生産をなし得ない等の欠点があった」ため、第一発明は、これら「諸欠点を解消する目的において、円筒型枠体を機械的に回転させながら糊着した鋼線を巻付けして胴紙を張着し、胴紙が定着した後に、円筒型枠体を縮径させて提灯袋を脱嵌する様になした装置であって、提灯袋の径の調整が自在にして、製作を高能率になして大量生産をなし得る様になしたことを特徴とするもの」であり、「本発明になる装置を用いることによって、手作業に頼るしかなかった長提灯袋の製作を高能率に大量生産し得るもので、長提灯袋の長さ、並びに径の調節が自在にして、従来の様に枠体の組立、或いは解体をなす必要もなく、ハンドルによる軸体の回転で簡易に提灯袋の取外しをなし得る等、前記した様な顕著な諸効果を奏する」というのである。

(二) 右の第一発明の目的及び効果に照らせば、第一発明は、(1)円筒型枠体を機械的に回転させながら糊着した鋼線を巻付けして胴紙を張着し、その後提灯袋を枠体から取り外す構成を前提とした上で、(2)従来のように枠体を解体することなく縮径(ハンドルによる軸体の回転)により提灯袋を枠体から分離して取り外す構成とし、また、(3)提灯袋の径の調整を自在にして同一装置によって種々の提灯袋が製作できる構成として、提灯袋製作の高能率化を図った発明であると解することができ、このことは前記「発明の詳細な説明」のうちの実施例図による発明の構成、作用効果の説明に照らしても首肯できる。

(三) このような観点から第一発明の「特許請求の範囲」を検討すると、構成要件AないしJは、右の(1)及び(2)の構成を示すものであり、KないしNは右(3)の構成を示すものと解することができる。

(四) イ号装置には、枠体を機械的に回転させながら糊着した綱線を巻付けして胴紙を張着すること、軸体の摺動により、枠体内部に形成したテーパー面を円板が移動して枠体を拡縮することの構成が具備されており、その限りにおいては、第一発明と基本的に共通する技術思想が存在しているといえる。

しかしながら、第一発明が枠体の拡縮手段として、ハンドル操作とねじ軸との協働作用によってねじ軸に固定された誘導支持枠が回転しつつ、テーパー面内を直線方向に移動するという構成を採用したことの意義は、それによって、イ号装置のようなハンマー等で軸体を直線方向に移動させるよりもはるかに円滑で確実な操作を行うことを可能にし、軸体やテーパー面に叩打による無理な力を加えず、故障を少なくすることができ、そのことは、「枠体の組立、並びに解体に手間を要する」ことなく、「製作を高能率になして大量生産をなし得る様に」するという発明の目的に沿うものであること、前記「発明の詳細な説明」のうちの実施例図による構成、作用効果の説明において拡縮手段として前記方法によるものしか記載されておらず、殊に作用効果の説明においては、「ハンドルによる軸体の回転で簡易に提灯袋の取外しをなし得る」と、そのハンドルによる軸体回転の効用を明記していること等を考えれば、このような枠体拡縮手段は、第一発明の必須の構成要件であると解するのが相当であり、そうすると、イ号装置は、第一発明の右必須の構成要件を充足しないから、第一発明の技術的範囲に属さないといえる。

(五) なお、証拠(甲一〇ないし一二、一三の一、二、三二の一ないし三)によれば、原告は、昭和五七年五月二〇日、「提灯袋製造用型枠」(その請求の範囲として、「軸の両端に、放射状の多数の長孔を穿設する摺動板を固着し、該摺動板の長孔に、外側の両端に緊締固定用の凹溝を設け、内面の両端に、傾斜切欠部を設けたる型枠板を嵌挿して、円筒型枠を形成し、軸の前後動により摺動板を円筒形型枠の傾斜切欠面に沿いて、摺動移行させることにより、円筒形型枠の径を伸縮する如く形成することを特徴とする、提灯袋製造用型枠。」との記載がある。)の実用新案登録を出願したところ(以下「原告出願」という。)、昭和五九年四月九日、特許庁審査官から実用新案法三条二項の規定により、実用新案登録を受けることができないとして、拒絶理由書において、第一発明の特許公報を引用されて右出願を拒絶され、同年六月二六日、原告は意見書を提出したが、同年九月二五日、同審査官から右拒絶と同一の理由により拒絶査定を受け、右拒絶査定謄本の備考欄には、「ねじで軸方向に移動するものに代えてカムを用いるのは、例えば(中略)直動カム等により周知技術である。」との記載があることが認められる。

原告は、右の点を捉えて、イ号装置における枠体の拡縮手段も第一発明の技術的範囲に属する旨主張するのであるが、証拠(甲一一、一三の一、鑑定の結果、証人藤井信行)によれば、第一発明と原告出願とは、ともに枠体の拡縮手段を内容とする点では共通しているところ、前記拒絶理由書及び拒絶査定謄本の記載は、原告出願が第一発明と比べて構造が違うことを認めながらも、実用新案として登録する程度の新規性ないし進歩性がないことを理由としたものであることが認められ、したがって、両者の構成要件が異なることを当然の前提としたものであるというべきである。

思うに、原告出願は、単に軸体の摺動移行のみをその要旨としており、これに先行する第一発明がより詳細な技術的手段を開示しているのと対比すれば、明らかに上位概念で記載されているのであって、このような場合、第一発明に後れてなされた原告出願が、先願である第一発明との関係で登録を拒絶されるのは、実用新案法三条二項の存在からして、いわば当然の事態であり、前記のように、特許庁審査官も右条項を挙げる以外に具体的な理由を付した判断をしているわけではないから、このことを根拠に、原告出願に比べてより具体的な枠体拡縮手段を備えたイ号装置が第一発明の技術的範囲に属するとすることはできない。

3  したがって、イ号装置は第一発明の技術的範囲に属しないから、被告がイ号装置を使用して長提灯袋を製造することは、何ら本件第一特許発明を侵害するものではなく、これを前提とする原告の請求は、その余の点を検討するまでもなく失当である。

三  ロ号方法が第二発明の技術的範囲に属するか否かについて

一 まず、前記のとおり、当事者間に争いのないロ号方法の構成要件aないしdが、同じく争いのない第二発明の構成要件AないしDをすべて充足するかどうかであるが、ロ号方法の構成要件a、b、cがそれぞれ第二発明の構成要件A、B、Cを充足することは当事者間で争いがない。

2 次に、ロ号方法の構成要件dが第二発明の構成要件Dを充足するか否かについて検討する。

(一)  第二発明についての特許公報(甲二の二。別紙特許公報(二)はその写し)の「発明の詳細な説明」によれば、「従来の提灯の製作に際しては、適宜の提灯用木枠に竹ひご等を巻回し糊つけをなし、その上面に紙等を粘着し、木枠のまま吊下げて数日間天日により自然乾燥するか、または、乾燥室を設けて、電気、ガス等適宜の加熱装置をなし、乾燥する等の方法が講ぜられたが、多大の設備費や、種々煩雑なる手数、並びに、時間を要し、非能率なるとともに、温度調節が困難にして、乾燥が過ぎて焼けを生じ、または、未乾燥となり、あるいは、乾燥むらを生じ変形する等各部を均等に適正温度にて乾燥することができず、不良品を生じ、確実に均等なる製品を製作することができない等の欠点があった」ため、第二発明は、「上記の欠点を除去し、極めて簡易なる装置、並びに、簡易なる操作により、各部を均等適正に加熱乾燥することができ、著しく能率を向上させることを得、優良製品を確実に製作し、生産原価を低減させることを目的とした」というのである。

(二)  同じく前記「発明の詳細な説明」の発明の実施例及び効果の各記載に照らせば、第二発明の要点は、提灯の外枠(骨)を形成する鋼線が電流導通部材であることに着目して、この外枠をなす綱線をそのまま通電部材として利用し、一定時間の通電により綱線を発熱させて、これにより綱線上に巻回された紙等を乾燥させる点にあることは明らかである。

(三)  第二発明の「特許請求の範囲」に記載されている「適宜の電源機構」については、発明の実施例をみると、「一〇〇V-三〇〇Vの電流を〇・五~-KW通じることにより、約六〇~九〇℃の温度となし、三〇~五〇秒通電して加熱することにより全周各部を均等に乾燥し、確実能率的に均等優良品を製造することができる」と記載され、そこでは被告が主張するような電圧調節可能な電源を使用しているように読めなくはない。

しかし、提灯の外枠を形成している綱線に電流を流して、綱線の外部に巻回された紙等を適正温度に加熱乾燥することが、電源電圧と通電時間の調整により実現できることは周知の事項であって、電源電圧を固定しても通電時間を調整して所定の温度を得ることができるし、逆に、通電時間をタイマー等により固定しても、電源電圧を家庭用又は工場用として供給されている一〇〇ボルト、二〇〇ボルトないしそれ以外の電圧に設定しても、所定温度を得ることができる。

そして、提灯袋の製造等の比較的生産規模が小さく、作業者もそれほど多いとはいえないこの種の製造業者においては、種々の動力源、照明その他の補助電源として、家庭用の一〇〇ボルト電源、工場用の二〇〇ボルト電源を使用するのが通例であり、これらの公称電圧以外の電圧が必要の場合、変圧器の利用により簡単に実現できることに照らせば、第二発明の特許請求の範囲に記載された「適宜の電源機構」の意味は、必ずしも実施例に示唆されている電圧調整可能な電源に限定されると解すべき理由はなく、広く電源電圧の切替えにより、加熱温度を調整する機能を有するものを指すと解することができる。

そうすると、電源スイッチ、タイマー、電源コードを介して提灯骨の両端に通電されるロ号方法の構成要件dは、第二発明の構成要件Dを充足するといえる。

3 したがって、ロ号方法は、第二発明の構成要件をすべて充足するから、第二発明の技術的範囲に属するものである。

四  抗弁2(第二発明についての先使用権の主張)について

1  証拠(乙一二、二三の二、被告本人)によれば、(一)(発明知得の経路等)の事実を認めることができる。

2  (二)(事業の実施の準備)の事実については、これを認めるに足りる証拠はない。事業の実施の準備があるといえるためには、被告において、単に、試作または研究をしていたというだけでは十分でなく、事業の準備が外部的客観的に明示されていることが必要であると解されるところ、かえって、証拠(乙一二、証人松崎静美、同池田しのぶ、被告本人)によれば、被告は、昭和四二、三年ころから回転提灯、紅丸小型提灯の製造を始め、利益があがらなかったこと等の理由から、昭和四七、八年ころ、いったんこれを中止し、その後、昭和五四年ころ、再び、提灯の製造を始めたが、その間、昭和四七年一月か二月ころには、紅丸小型提灯の提灯骨に電気をつないで通電実験を行ったことはあるものの、煙が出たり、また、実験自体も数日間で終わったりする程度のものであり、昭和五〇年ころにおいても、ビニール提灯を用いた糊の検査をしていただけであることが認められ、右のような事実によれば、昭和四七年秋ころにおいて、被告の事業の準備が外部的客観的に明示されていたとはいえず、したがって、事業の実施の準備があったとは認められない。

3  そうすると、この点の被告の先使用権の主張は理由がない。

五  請求原因9(被告の利益と原告の損害)について

証拠(甲三二の一、乙一二、証人平田豊彦、同池田しのぶ、検証の結果、原告本人、被告本人)によれば、被告は、ロ号方法が第二発明の技術的範囲に属することを知りながら、昭和四八年ころ、ロ号方法を実施する提灯乾燥装置を牛島電気工業株式会社に依頼して製作させ、昭和五四年ころからのビニール丸提灯の製造、昭和五八年三月中旬ころからの長提灯の製造に、それぞれ右ロ号方法を実施する提灯乾燥装置を使用し、その間、当裁判所の検証時である昭和六〇年四月二四日には、右提灯乾燥装置を所持していた事実を認めることはできるが、本件全証拠によっても、被告が原告主張の平成元年九月までの間に、右ロ号方法を実施する提灯乾燥方法を使用して、いかなる額の利益を得たか、延いてこれと同額と推定される損害を原告に与えたかを認めるに足りない。

この点に関する別紙「被告が第一特許と第二特許の侵害により得たる利益の明細書」と題する書面は、被告の挙げた利益について、帳簿等の客観的資料に基づいて算出されたものではなく、利益の基礎について合理的な根拠を有するものとは認められず、疑問があるというべきであり、他に的確な立証のない本件においては、被告の得た利益及びこれと同額と推定すべき原告の被った損害は認めがたいというほかない。

六  まとめ

以上のとおりであるから、原告の本訴請求中、本件第一特許権侵害に基づく請求及び本件第二特許権侵害に基づく請求中、損害賠償請求に関する部分は理由がないが、被告がロ号方法を実施する提灯乾燥装置を所持し、使用していたことは、当事者間に争いがないから、同装置の製作、使用、及び製品の所持、譲渡等の差止めを求める原告の請求は理由がある。

第二  反訴事件について

一  請求原因について(争いのない事実等)

1  請求原因1(被告による本件各特許権侵害の不存在、被告の先使用権)の事実のうち、原告が本件各特許権を有することは、当事者間に争いがない。

そして、本訴事件において、前述したところによれば、被告が使用するイ号装置については、原告の有する本件第一特許権を侵害しないが、ロ号方法については、原告の有する本件第二特許権を侵害している。また、第二発明についての被告の先使用権の主張は認められない。

2  同2(原告の名誉棄損行為等)の事実のうち、(一)については、原告が昭和五五年四月二一日、被告を福岡県筑後警察署に刑事告訴した事実及びこれにより、被告らが捜査当局から取調べを受けた事実、(二)については、原告が昭和五九年一月五日、被告を福岡県八女警察署に刑事告訴した事実及びこれにより、被告らが捜査当局から取調べを受けた事実、(三)については、原告が被告、その従業員、取引先らに警告状を発した事実は、いずれも当事者間に争いがない。

3  同5(反訴状の送達)の事実は、当裁判所に顕著である。

二  名誉棄損の成否について

1  原告のした前記各刑事告訴及び被告らに対する前記各警告等が被告に対する名誉棄損行為として、違法性を具備するか否かについて判断するに、特許権を侵害した者には、特許法違反の罪(特許権侵害罪、同法一九六条一項)が成立し、しかも、これは親告罪であるから(同条三項)、特許権者が自己の有する特許権に対する侵害事実があると思料する場合において、そのような侵害に対する防衛手段として、行為者に対し、同法一〇〇条に基づく差止請求権その他の民事上の権利を行使するにとどまらず、さらに、刑事告訴等の手段に出ることは、それが社会通念上、権利者に許された権利行使の程度を逸脱し、そのような手段に出ること自体が犯罪を構成する等違法性を有するものと認められる場合を別とすれば、適法な権利の行使として許容され、これを違法ないし不当な行為とみることはできない。

さらに、本件においては、証拠(甲二三、乙一一、鑑定の結果)にもみられるように、被告の使用するイ号装置及びロ号方法が原告の有する第一発明及び第二発明を侵害するか否かの判断について、特許関係事件の専門家である弁理士の間においても、全く相反する結論が出るほど、高度に技術的専門的な内容を含んだ問題であり、かつ、本件のように、仮に一部においてであれ、裁判所において特許権侵害の事実が認定されるような事案について、訴訟の帰趨すら予測できない当時の状況において、いかに被告が書面または口頭によって、自らが特許権侵害に及んでいないことをるる説明していたとしても、必ずしも、原告に対し、前記のような告訴行為等に出てはならないことを要求することはできないのであって、さような行為に出ていたことのみをもって、原告の故意、過失を認めることは相当でないというべきである。

すなわち、原告の行為については、違法性を認めることができず、また、過失を認めることもできない。

2  そうすると、その余の点について判断するまでもなく、被告の反訴請求は理由がない。

第三  結論

以上によれば、原告の本訴請求については、主文一項ないし三項掲記の差止請求権が認められる限度で理由があるからこれを認容し、損害賠償請求を含むその余の本訴請求及び被告の反訴請求については、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法九二条本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中貞和 裁判官 河田泰常 裁判官政岡克俊は、転補のため、署名捺印することができない。 裁判長裁判官 田中貞和)

物件目録(一)

イ号装置説明書

一 図面の説明

第1図はイ号装置の平面図

第2図は綱線巻回状態平面図

第3図は第2図A―A線による正面図

第4図は第1図を左方から見た側面図

第5図は第1図B―B線による縦断面図

第6図は円筒型枠体の縦断面図

第7図はジョイントの斜視図

第8図は溝軸受の斜視図

第9図は綱線の斜視図

第10図は軸体叩打状態の正面図

二 構造の説明

機枠1に支脚2、3を立設し、一方の支脚1の上端に軸受4を設け、他方の支脚3の上端に溝軸受5を設ける。

前記軸受4には駆動回転軸6を支持し、同回転軸6の一端には駆動用プーリ7を設け他端にはピン係合溝8(第7図)を形成したジョイント9を設ける。このジョイント9には軸体10を着脱自在に嵌合し、ピン11をピン係合溝8に挿入し軸体10の他端は第8図に示すように溝軸受5に支持する。

軸体10の中程には円板12、12を2個固定して設け、同円板12、12の外周に直径方向に複数の溝13を形成し(第5図参照)、これらの溝13に枠杆14を直径方向に摺動自在に嵌合して円筒型枠体15を形成し、同枠体15の両端外周に環ゴム16、16を嵌合しその弾力性によって枠杆14を軸体10に向って締付ける。

前記円板12、12は枠杆14の内面に形成したテーパー面17、17に環ゴム16、16の弾力性によって圧着し、第10図のようにハンマーの叩打で軸体10を摺動させることにより円板12、12とテーパー面17、17との相互作用によって円筒型枠体15の外径は拡縮する(第6図実線及び二点鎖線によってその状態を示す)。

機枠1には前記円筒型枠体15と平行なネジ軸18を軸受19、19によって支持し、同軸18に設けたVプーリ20と前記Vプーリ7とをVベルト21で接続してネジ軸18と駆動回転軸6とを連動させ、同ネジ軸18はモーター22によって回転させる。

前記ネジ軸18には第4図に示すように二つ割型雌ネジ23をスプリング24の力で螺合し、ネジ軸18の回転により同雌ネジ23を摺動させ、スプリング24をレバー25で操作して二つ割型雌ネジ23を上下に開いて螺合を解き同雌ネジ23を元の位置に戻す。

この雌ネジ23には腕杆26を設け同腕杆26の上端に糊収容箱27を設ける。

紙28を巻付けて被覆した綱線29(第9図参照)をリール30に巻取り、同綱線29を前記糊収容箱27の糊付車31を通過させて糊を塗着し前記円筒型枠体15に螺旋状に巻付ける。

イ号装置説明図

〈省略〉

〈省略〉

物件目録(二)

ロ号方法説明書

一 図面の説明

第1図は円筒型枠体の縦断面図

第2図は紙粘着状態の斜視図

第3図は綱線の斜視図

第4図はロ号方法を示す斜視図

二 製法の説明

枠杆14による組立自在の円筒型、球型、角型等適宜形状に形成する枠体15の外周に紙28を巻いて被覆した電導性綱線29を螺旋状に巻回して提灯骨32を形成する。

この提灯骨32の外周面に接着用の糊を塗着しその上面に紙を粘着する。

その後この提灯骨32の両端に+・-の電源コード33、33を接続し、この電源コード33、33を電源スイッチに接続して電流を通じ、加熱乾燥して提灯袋を製造する。

(図は、長提灯乾燥の例を示す。)

ロ号方法説明図

〈省略〉

特許公報(一)

〈51〉Int.Cl2. F 21 L 19/00 〈52〉日本分類 93 B 3 日本国特許庁 〈11〉特許出願公告 昭51-7956

特許公報 〈44〉公告 昭和51年(1976)3月12日

庁内整理番号 6355-51 発明の数 1

〈54〉円筒型長提灯袋製造装置

〈21〉特願 昭48-70931

〈22〉出願 昭48(1973)6月20日

公開 昭50-17077

〈43〉昭50(1975)2月22日

〈72〉発明者 三角公子

〈71〉出願人 三角公子

八女市大字立野33

〈72〉発明者 原政登

〈71〉出願人 原政登

筑後市大字西牟田町3457

同 有限会社八媛グラス

筑後市大字長浜901の4

同 江崎與會市

筑後市大字下妻729の1

〈74〉代理人 弁理士 穴見之武義

〈57〉特許請求の範囲

1 本文に列記し、実施例図に例示した様にペース1の上面背面寄り一方側に支脚を立設して軸受2を固締し、他方側に倒着し得る様になした支脚を立設して溝軸受3を固締し、適長さの軸体4の両側部に右ねじ5、左ねじ5'を穿設し、円板6の円周縁部に放射状の長孔7を適数開孔すると共に、該円板6の中心に軸受8、8'、ネジ軸受9、9'等を固定した支持枠10、10'、誘導支持枠11、11'を形成し、軸体4の中央部に支持枠10を遊嵌すると共に右ねじ5、左ねじ5'に誘導支持枠11と11'とを捻し、適長巾の長板12の両端部下面にテーパー面13、13'を形成し、一端部寄りにピン14、14'を突設すると共に、両端部に小孔15、15'、一端寄り上部位置に適間隔をおいてボルト孔16等を開孔し、先端部上面を切欠した枠杆18を形成し、適長さの板片19の一方端部上面を切欠20し、他方端部上面にテーパー面21を形成すると共に下部位置にボルト孔22を開孔した調整枠23を形成し、該調整枠23を枠杆18の一端寄り上部位置にボルト等により付設し、該調整枠23を付設した適数の枠杆18の中央下面を支持枠10の各長孔7に、両端部テーパー面13、13'を誘導支持枠11、11'の各長孔7に嵌着し、軸体4の両端メタル24、24'を嵌すると共に、該メタル24、24'と各枠杆18の両端部小孔15、15'とにスプリング25、25'を張設し、軸体4の一端部に支持枠10'を遊嵌して各枠杆18の一端に突設したピン14と14'との間隙に嵌着させた円筒型枠体26を形成し、該円筒型枠体26の軸体4にVプーリ27を固締して両端部を軸受2と溝軸受3とに軸架し、軸体4の一端部を溝軸受3より少許突出させてハンドル28を嵌着し得る様になし、ペース1の正面寄りに支脚を立設し、その上面に軸受29、29'を固締し、該軸受29、29'にネジ軸30の両端部を軸架し、該ネジ軸30の両端部寄りにVプーリ31、31'を固締し、Vプーリー31とVプーリー、27とにVベルト32を調帯し、ネジ軸30に割型とをしてスプリング33、33'で係着したガイド軸受34、並びに円錐状の拡げ筒35を嵌着し、ガイド軸受34より腕杆36を背面方向に突設し、該腕杆36の先端に収容箱37を付設し、腕杆36の下部位置にガイド杆38を横設して腕杆36を載架し、ペース1に設置した無段変速機付モーター39の回転軸に固締したVプーリー40とVプーリー31'とにVベルト41を調帯し、巻付ボビン42に巻付けされた網線43を糊収容箱37を貫通させて円筒型枠体26に延長巻付けすべくなして成る円筒型長提灯袋製造装置。

発明の詳細な説明

従来、長提灯の提灯袋を製造する場合には長板状の枠杆の両端部を円型支持板に嵌着して円型筒体状の枠体を組立し、該円型筒体状の枠体を軸杆に架して回転させながら網線を巻付けすると共に、その表面に提灯胴紙を張着して網線に胴紙が定着した後に内部の枠体を解体して提灯袋を抜取りしているものであり、円型筒体状の枠体の組立、並びに解体に手間を要すると共に、高能率に作業をなし得ず、近年、人手不足と共に提灯の大置生産をなし得ない等の欠点があつた。

本発明は、上記諸欠点を解消する目的において円筒型枠体を機械的に回転させながら糊着した網線を巻付けして胴紙を張着し、胴紙が定着した後に円筒型枠体を縮径させて提灯袋を脱嵌する様になした装置であつて、提灯袋の径の調整が自在にして、製作を高能率になして大量生産をなし得る様になしたことを特徴とするものである。

以下、実施例図により、本発明の構成を説明する。

ペース1の上面背面寄り一方側に支脚を立設して軸受2を固締し、他方側に倒着し得る様になした支脚を立設して溝軸受3を固締し、適長さの軸体4の両側部に右ねじ5、左ねじ5'を穿設し、円板6の円周縁部に放射状の長孔7を適数開孔すると共に、該円板6の中心に軸受8、8'、ネジ軸受9、9'等を固定した支持枠10、10'誘導支持枠11、11'を形成し、軸体4の中央部に支持枠10を遊嵌すると共に右ねじ5、左ねじ5'に誘導支持枠11と11とを捻着し、適長巾の長板12の両端部下面にテーパー面13、13'を形成し、一端部寄りにピン14、14'を突設すると共に、両端部に小孔15、15'、一端寄りの上部位置に適間隔をおいてボルト孔16等を開孔し、先端部上面を切欠17した枠杆18を形成し、適長さの板片19の一方端部上面を切欠20し、他方端部上面にテーパー面21を形成すると共に下部位置にボルト孔22を開孔した調整枠23を形成し、該調整枠23を枠杆18の一端寄り上部位置にボルト等により付設し、該調整枠23を付設した適数の枠杆18の中央下面を支持枠10の各長孔7に、両端部テーパー面13、13'を誘導支持枠11、11'の各長孔7に嵌着し、軸体4の両側部にメタル24、24'を遊嵌すると共に、該メタル24、24'と各枠杆18の両端部小孔15、15'とにスプリング25、25'を張設し、軸体4の一端部に支持枠10を遊嵌して各枠杆18の一端に突設したピン14と14'との間隙に嵌着させた円筒型枠体26を形成し、該円筒型枠体26の軸体4にVプーリー27を固締して両端部を軸受2と溝軸受3とに軸架し、軸体4の一端部を溝軸受3より少許突出させてハンドル28を嵌着し得る様になし、ペース1の正面寄りに支脚を立設し、その上面に軸受29、29'を固締し、該軸受29、29'にネジ軸30の両端部を軸架し、該ネジ軸30の両端部寄りにVプーリー31、31'を固締し、Vプーリー31とVプーリー27とにVベルト32を調帯し、ネジ軸30に割型となしてスプリング33、33'で係着したガイド軸受34、並びに円錐状の拡げ筒35を嵌着し、ガイド軸受34より腕杆36を背面方向に突設し、該腕杆36の先端に糊収容箱37を付設し、腕杆36、下部位置にガイド杆38を横設して腕杆36を載架し、ペース1に設置した無段変速機付モーター39の回転軸に固締したVプーリー40とVプーリー31'とにVベルト41を調帯し、巻付ボビン42に巻付けされた網線43を糊収容箱37を貫通させて円筒型枠体26に延長巻付けすべくなして成るものである。尚、図中44は厚紙、45は提灯胴紙を示す。

つぎに実施例図により、本発明の作用効果を説明する。

提灯袋を製造する場合には、各長さにより調整枠23を枠杆18の適位置にボルトナツトで固締した後に、ハンドル28を左回転、または右回転させると軸体4が回転し、枠杆18の両端部下面のテーパー面13、13'に嵌着した誘導支持枠11と11'とをそれぞれ内側方向または外側方向に対向誘導して円筒型枠体26の径を規定値にめ、調整枠23の切欠20及び枠杆18の切欠17にパフン紙等の厚紙44を巻着した後に、該厚紙44に糊収容箱37で糊付けされた網線43の一端を係着した後に無段変速嵌付モーター39を駆動する。モーター39と連動してネジ軸30並びに円筒型枠体26が回転し、ネジ軸30に軸着したガイド軸受34は腕杆36の下面をガイド杆38に摺動させながら矢印イの様に移行し、従つて円筒型枠体26の回転により、糊収容箱37を通過した網線43は願次適間隔をもつて螺旋状に円筒型枠体26の外周面に巻着され、その終端を枠杆18の切欠17に巻付けした厚紙に係止するものである。円筒型枠体26の外周面に巻着された糊付網線43の外周面に提灯胴紙45を張着し、一定時間後に提灯胴紙45が網線43に接着した後にハンドル28を操作して誘導支持枠11と11'とを内側方向に移行させ、スプリング25、25'の弾力により各枠杆18を支持枠10、10'の長孔7内を誘導させて縮径させた後に溝軸受3を固締した支脚を倒着させ、提灯胴紙45と網線43により形成された提灯袋を円筒型枠体26より脱嵌するものである。またネジ軸30の一端部に移行したガイド軸受34は拡げ筒35を1側より内部に挿入してスプリング33、33'の弾力に抗してガイド軸受3.4を拡開させ、当初の位置に押送して復帰させるものである。

上記した様に、本発明になる装置を用いることによつて手作業に頼るしかなかつた長提灯袋の製作を高能率に大量生産し得るもので、長提灯袋の長さ、並びに径の調節が自在にして、従来の様に枠体の組立、或いは解体をなす必要もなく、ハンドルによる軸体の回転で簡易に提灯袋の取外しをなし得る等、前記した様な顕著な諸効果を奏するものである。

図面の簡単な説明

第1図は本発明の実施例に係る製造装置の平面図、第2図は円筒型枠体への網線、並びに胴紙の巻着状態を示した平面図、第3図は製造装置の側面図、第4図は第1図A-A方向線拡大断面図第5図は枠杆並びに調整枠の拡大正面図である

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

第5図

〈省略〉

特許公報(二)

〈19〉日本国特許庁 〈11〉特許出願公告

特許公報 昭53-32631

〈51〉Int.Cl2F21 P 1/00 識別記号 〈52〉日本分類 93 B 3 庁内整理番号6832-51 〈44〉公告 昭和53年(1978)9月9日

発明の数 1

〈51〉提灯の乾燥製造法

〈21〉特願 昭48-112640

〈22〉出願 昭48(1978)10月5日

(前置審査に係属中)

公開 昭50-61884

〈43〉昭50(1975)5月27日

〈72〉発明者 出願人に同じ

〈71〉出願人 江崎与曾市

築後市大字下妻729の1

〈74〉代理人 弁理士 林田熊蔵

〈57〉特許請求の範囲

1 円筒形、球形、角形等適宜形状に形成する、組立解体自在となしたる型枠の外周に、紙等を捲着せる、電導性の網線を、螺旋状に巻回して提灯骨を形成するとともに、該提灯骨の外周面に、接着用の糊を塗着し、その上面に、紙等を貼着したる後該電導性提灯骨に、適宜の電源機構により、電流を通じ、適正温度に加熱乾燥し、成型することを特徴とする提灯の乾燥製造法。

発明の詳細な説明

従来の提灯の製作に際しては、適宜の提灯用木枠に竹ひご等を螺旋状に巻回し糊つけをなし、その上面に紙等を貼着し、木枠のまま吊下げて数日間天日により自然乾燥するか、または、乾燥室を設けて、電気、ガス等適宜の加熱装置をなし、乾燥する等の方法が講ぜられたが、多大の設備費や、種々煩雑なる手数、竝びに、時間を要し、非能率なるとともに、温度調整が困難にして、乾燥が過ぎて焼けを生じ、または、未乾燥となり、あるいは、乾燥むらを生じ変形する等各部を均等に適正温度にて乾燥することができず、不良品を生じ、確実に均等なる製品を製作することができない等の欠点があつた。

しかるに本発明は、上記の欠点を除去し、極めて簡易なる装置、竝びに、簡易なる操作により、各部を均等適正に加熱乾燥することができ、著しく能率を向上させることを得、優良製品を確実に製作し、生産原価を低減させることを目的としたる発明にして、以下実施例を図面について説明すれば、

実施例

枠筒1の中心に、軸筒2を嵌合自在に形成し、枠筒1の外周には、円筒形、円形、角形等適宜形状の板体3を、挿入する凹条溝4を放射状に穿設しこれに、板体3が枠筒1より突出するよう挿入形成してなる提灯製作用型枠aの外周に適宜等を表面に捲着形成せる、径0.2-0.5mm網線骨5を糊をつけながら適宜間隔を設けて螺旋状に巻回する。網線骨5の所要長さは、提灯筒の径の大小および、形状によつて多少の差異はあるが、大体50~90mである、網線骨5の巻回完了後は、巻回の際糊つけしなかつたものは、網線骨5の上面糊つけ作業をなし、その上面に紙6等を張りつけて所望の提灯に張り上げ、該綱線骨5の両端を引き出し、電源装置7に接続し、100V-300Vの電流を、0.5~1KW通じることにより、約60~90℃の温度となし、30~5加熱することにより全周各部を均等に乾燥し、確実能率的に均等優良品を製造することができるものである

本発明は上記の如く、提灯骨を網線骨5等電導性を有する細線により構成し、該網線骨5等に電流を通じ、加熱乾燥するの極めて簡易なる装置、並びに、操作により、短時間にて乾燥することができるため、熱効果も極めて有効にして、従来の乾燥室を設けて、電気、ガス等により加熱乾燥するものに比し、約〈省略〉の経費により乾燥することができ、しかも、多大な設備や、器具、および、広い作業場を要しないとともに、極めて短時間にて乾燥できるため、型枠aの使用回数を著しく増加し、型枠aの設備費を〈省略〉と著しく低減するこを得、経費の節約上多大の効果を有するとともにまた、提灯の種類形状大きさおよび網線骨5の径竝びに巻つける間隔等に応じて電流等の操作を適宜調節するの簡易なる操作により、何等熟練技術を要することなく、常に均等な優良品を製作することができるものにして、殊に、タイマースイッチ等を装備して適宜接続すれば、人手を要せず自動的に適正温度にて加熱乾燥することを得、極めて能率的に廉価に製作することができ、大量生産に適するとともに、ただ単に、適宜の電源機構を装備するの極めて簡易なる設備により、従来の如く広い特定の作業場を要することなく、しかも、何れの場所でも任意に実施できる等の特徴を有し設備費低廉なる等、在来に見られない幾多の特徴効果を有するものである。

図面の簡単な説明

第1図は、本発明の実施例にして一部欠截せる斜面図を示す。

第1図

〈省略〉

被告が第一特許と第二特許の侵害により得たる利益の明細書

1.被告が長提灯袋生産の請負工賃による第一特許と第二特許による合計額利益明細

金三三六〇万〇〇〇〇円

内訳

一七九万二〇〇〇円(昭和五八年三月から今年一〇月まで八ヶ月)

月二二万四〇〇〇円の割合による、竜ヶ原工場分「機械一台分」

三一八〇万八〇〇〇円(昭和五八年二月から平成元年九月まで七一ヶ月合)

月四四万八〇〇〇円の割合による竜ヶ原工場及い不明工場分)「機械二台1万」

(イ)工場の標示 1.八女市大字竜ヶ原所在の被告所有工場三階部分

2.秘密工場一ヶ所(所在不明)

使用機械 右二個の工場に各一台、計二台

使用工員 右各工場には、各女性三名(一名線巻き二名紙張り乾燥)

以上合計六名使用

(ロ)一日の生産数量及び利益

合計三〇〇個(一工場には、一五〇個)

二個工場による利益

一日當り一万七九二〇円(一工場當り八九六〇円)

一ヶ月当り稼動二五日、四四万八〇〇円(一工場二二万四〇〇〇円)

以上、別紙利益明細書中「二、一日の生産明細」部分参照

(ハ)被告がげた利益中、第一特許侵害による部分と第二特許侵害による部分との割合には、

若し長提灯袋加工には、電熱乾燥を用いない場合は生産は三分の一に落ちる(入江証言79)實際は、それ以下の生産となる、

依って長提灯袋製造利益金三三六〇万〇〇〇〇円中

A機械による利益は、その三分の一の金一一二〇万〇〇〇〇円となり

B乾燥による利益はその三分の二の金二二四〇万〇〇〇〇円となる、

2、被告が紅白ビニール提灯袋生産に当り電熱乾燥法利用いし得たる明細、

金二七三六万〇〇〇〇円

内訳

(イ)生産期間、昭和五六年10月から平成元年九月まで九六ヶ月

生産場所、八女地区一円(被告工場以外の第三者に委託加工)

(ロ)使用人員、外注職人四名(元年七月七日被告本人調書供述61)

(ハ)一日の生産数量

合計二〇〇個(一名当り日産五〇個)

一ヶ月当り(稼動二五日)五〇〇〇個

(ニ)利益

一日当り一万一四〇〇円(卸値三八〇円(甲二六の一、二、)原価8.5%二三二円、利益1.5%五七円)

一ヶ月当り(稼動二五日)二八万五〇〇〇円

九六ヶ月合金二七三六万〇〇〇〇円

3、右1.及び2.の合計金六〇九六万〇〇〇〇円

が被告が第一特許及び第二特許の侵害による利益の合計である

内訳(被告がげた右利益の割合は左のとほりである)

(イ)第一特許による利益

金一一二〇万〇〇〇〇円

(ロ)第二特許

金四九七六万〇〇〇円

内訳

1、長提灯乾燥による利益金二二四〇万〇〇〇〇円「1.B」

2、紅白ビニール提灯乾燥利益金二七三六万〇〇〇〇円「2.(ニ)3行目」

以上。

利益明細書「長提灯生産による」

(一) 被告か工員六名により二個工場の長提灯生産の請負工賃により得た利益の明細

一、機械二台による利益金の算定

日産 三〇〇個

利益 金一万七九二〇円

月間(二五日生産)七五〇〇個

金四四万八〇〇〇円

二、一日の生産明細(昭和五八年三月開始現在に至る

(甲27号証、長提灯加工利表入江哲也作成参照)

〈省略〉

右は二個工場の内、一工場分の明細

二個工場では右の信額となる。

右は昭和五九年三月現在の利益明細です、

平成二年一月現在は更に大巾の利益となってろうと思われる。

利益明細書「紅白ビニール提灯袋による」

(二)被告が八女地区一月に於て外注職人四名に対し紅白ビニール提灯袋を依証加工し、得たる利益の明細

一、電気乾燥器 四台による利益金の算定

日産 二〇〇個

利益 金一万一四〇〇円

月間(二五日生産) 五〇〇〇個

金二八万五〇〇〇円

二、紅白ビニール提灯一個の生産明細

(甲二六の一、二、号証納品書、領収証)

〈省略〉

右は昭和五六年一〇月から平成元年九月までの平均明細である、

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